ニホンミツバチが教えてくれた、里山のこと|蜜々ロード
最初は、ただニホンミツバチを飼ってみたかった。
小さな巣箱に出入りする蜂を眺め、その暮らしを知りたいと思った。それが始まりでした。けれど、ミツバチがどこへ飛び、何を食べ、一年をどう生きているのかを考えるほど、私の視線は巣箱の外へ向かっていきました。

小さな巣箱から、里山全体を見る旅が始まった。
一つの巣箱から、外の世界へ
巣箱はミツバチの暮らしの中心であっても、世界のすべてではありません。巣門を飛び立った一匹は、ヒトが引いた土地の境界など知らずに飛んでいきます。
庭先の花を訪れ、畑の畦を越え、草地へ向かい、竹林の縁を抜け、森の木々へ。巣箱の前だけを見ていては、ニホンミツバチの暮らしは見えてこない。そう気づいたとき、養蜂は「箱の中を管理すること」ではなく、その外側にある環境との関係を考えることへ変わりました。
花を追うと、季節が見えてくる
ミツバチは一年を通して、同じ場所、同じ花だけを頼りにしているわけではありません。その時々に咲く花を探しながら命をつないでいます。
花を見るようになると、季節の移り変わりが見えてきます。そして、花だけでなく、その植物が育つ光や風、土や水にまで目が向くようになります。
蜜源植物を増やすとは、花を植え続けることだけではありません。すでにこの土地にある命が育てる環境を取り戻すことも、大切な方法です。
竹を伐る先に、花が咲く
常陸乃BAM部で行う竹林整備も、養蜂と離れた活動ではありません。
竹を伐ること自体が目的ではなく、密集して暗くなった場所へ光と風を戻すこと。そのことで、竹に覆われていた地面に余地が生まれ、カラス山椒、クサギ、ヌルデなど、この地域に自生する植物が育つ可能性が広がります。それらはやがて、ニホンミツバチを支える蜜源にもなります。
一本の竹を伐ることと、一匹のミツバチが花へ向かうこと。遠く離れて見える二つは、里山の中ではつながっています。竹林整備は景観を整えるだけでも、竹を資源に変えるだけでもない。多様な命が戻れる空間をつくる仕事でもあるのです。

竹を伐った先に、光と風、そして花が戻ってくる。
ミツバチは、人の境界を越えていく
私たちは、田畑、草地、竹林、森林、果樹園、庭木、人家を別々の場所として分類します。けれど、ミツバチはそれらを一つの暮らしの場として横断します。
田畑の畦に咲く草花も、森の木の花も、庭先の果樹も、集落の中の庭木も、ミツバチにとっては同じ里山を形づくる一部です。どこか一か所だけを守ればよいのではなく、それぞれの場所が途切れずにつながっていることに意味があります。
その姿を追うことで、私たち自身が分けて考えてきたものを、もう一度一つの風景として見直せるようになりました。

田畑も竹林も森林も、ミツバチには一つの里山。
人が関わることで生まれた自然
自然を守るというと、人が自然から離れ、何もしないことを思い浮かべるかもしれません。しかし、里山は人のいない原生自然ではありません。
人が草を刈り、木を伐り、田畑を耕し、薪を拾い、果樹を育ててきた。その長い営みの中で、明るい林や草地、水辺が保たれ、多くの命が暮らせる環境が形づくられてきました。
だから必要なのは、人間を里山から排除することではなく、関わり方をつくり直すことです。手を入れすぎず、放置もしない。人の暮らしと自然の循環が、どちらかに無理を押しつけず続いていく関係を探すことです。
人の暮らしがあるからこそ、守られてきた里山がある。
巣箱から地域へ――蜜々ロード
一つの巣箱から始まった視線は、やがて集落と地域へ広がりました。それが「蜜々ロード」です。
蜜々ロードは、県道33号沿い、水府地区を中心に進めるニホンミツバチの地域プロジェクトです。染和田地区から始まり、2026年8月9日には16名が参加して巣箱づくりワークショップを行いました。使用したのは、地域の杉を使った3メートル材。完成した巣箱は各家庭の土地に設置します。

けれど、目的は巣箱の数を増やすことだけではありません。ニホンミツバチを入口に、人と人、集落と集落、森林と農地、地域の杉材、そして子どもたちの学びをつなぐこと。一本の道に点在する暮らしや資源を、再び関係の中に置き直すことです。
計画では、2027年に染和田地区、2028年に山田地区、2029年に天下野地区、2030年に高倉地区へと展開していく予定です。急いで線を引くのではなく、それぞれの地区で関わる人を増やしながら、一つずつ点を結んでいきます。
世代を越えて巣箱を囲む時間が、地域の次の物語になる。
蜜々ロードが目指す風景
ミツバチが花から花へ飛ぶように、人もまた、地区を越えて出会う。地域の材が巣箱になり、森の手入れが蜜源を育て、子どもの学びが次の担い手へつながっていく。蜜々ロードとは、里山に残る一つひとつの営みを結び直す道です。
夕暮れの先へ、里山の物語は続いていく。
田舎に生きることを、もう一度、みんなで楽しみたい。
子どもたちが走り回り、ミツバチが飛び交い、採れた蜂蜜をみんなで分かち合う。
そんな風景を、この里山にもう一度。
蜜々ロードは、まだ始まったばかりです。





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